研究概要
近年の免疫学の進歩はめざましく特に難治性の病態に対しての新しい治療が開発されてきています。私たちは臨床を基本とし、臨床の現場での疑問を研究の場で明らかにする“Bed to Bench”の精神で取り組んでいます。研究テーマの多くは臨床上のクリニカルクエスチョンが出発点でありクエスチョンを明らかにする事が膠原病・リウマチ性疾患の病態解明・治療を一歩でも進めることができると信じて研究を続けています。
我々の研究のモチベーションは短期的あるいは長期的に患者様の診療に役立てることです。そのためには教室員個人の独創性と興味を重視し、分野にこだわらない研究を実践しています。基礎研究、臨床研究ともに重要と考え、研究手法も生化学的、分子生物的、病理学的、免疫学的、疫学的も限定せず、研究分野の統合をはかりながら、国内外に評価され、各分野をリードする研究を目指しています。
生じたクリニカルクエスチョンを種々の手法を用いてじっくりと考え、真実を明らかにしていく研究の戦略や過程は臨床の現場でも同様であると思われます。より良い臨床医なるためには必須な時間と考えます。全てのスタッフに研究に携わる時間を持てるようにしています。個々のリサーチマインドに速やかに応えるべくこれまで教室が培ってきた学内外の人的・知的資材を最大限に活用しています。
基礎研究
これまでの研究成果
(1)免疫系の中心であるリンパ球の機能解析(図1)
膠原病・リウマチ性疾患は性差が明らかに存在し、発症に年齢が関与します。内分泌系と免疫系のクロストークを解明することは膠原病・リウマチ性疾患の病態解明に意義のあることと考え研究を進めました。Growth hormone(GH)がTリンパ球に及ぼす抗グルココルチコイド作用の増殖抑制効果に拮抗することを見いだし、そのメカニズムはJak2-stat5系を介してbcl-2の発現増強を誘導する事によるapoptosisの阻害に起因していました。またその作用はCD4+ T cellに特異的である事も証明しました。またBリンパ球のFas-mediated apoptosisに対してもGHが抑制することを証明しました。Tリンパ球の活性化における副次シグナル因子であるCD28やCD25に標的に活性化に制御する新たな分子としてpp100蛋白やTec分子を明らかにしました。また希少糖のTリンパ球の活性化抑制効果においては特許を取得しています。
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(2)疾患活動性、治療反応性のバイオマーカーの探索(図2)
Bed to benchに即した研究です。血中およびリンパ球産生サイトカイン、リンパ球表面マーカーなどを解析する講座内の他の診療科との共同研究です。膠原病・リウマチ性疾患に合併する間質性肺炎のマーカーとして、Tリンパ球産生IFNや末梢血中のCD28陽性細胞が疾患活動性および予後のマーカーとして有用であることを見いだしました。関節リウマチでは生物学的製剤の治療反応性を予測マーカーとして末梢血CD3-CD56+細胞が有用である事を見いだしています。学内共同研究では耳鼻科とCD4+Tリンパ球の遊走因子として発見されたIL-16にいち早く着目し、IL-16と鼻アレルギー病態との関与を明らかにしました。またこのIL-16は関節リウマチの滑膜増殖にも関与していることを証明し、現在IL-16制御よるアレルギー疾患・関節リウマチの治療への応用を検討中です。整形外科とは関節リウマチモデルラットにおいてビスフォスフォネート製剤が関節破壊を抑制する事を証明しました。またTNFが病態の中心となっている関節リウマチにおいてadipocytokine産生、糖代謝などと治療との関連を検討し内分泌・免疫系のクロストークを検討しています。自己炎症症候群では新規遺伝子変異(NALP3 D303A)を同定し患者単球がIL-1βを過剰産生する事を証明しそのメカニズムを解析しています。
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これからの研究
制御性T細胞による新規免疫抑制療法の開発
自己免疫疾患におけるステロイド療法が始まり40年、依然として治療の中心的役割を担っています。多くの臨床医ならびに研究者が脱ステロイド療法を目指していますが実現できていません。これまで行ってきたTリンパ球の研究を発展させ、制御性Tリンパを制御する分子ないしは細胞そのものを標的とした研究を行いたいと思います。制御性T細胞の制御に関わる分子を網羅的に解析し、特に妊娠時にのみ発現する蛋白に注目し、呼吸器、血液、膠原病・リウマチ疾患に用いられる免疫抑制療法の対する創薬につながる研究にしていきたいと思っています。
炎症と線維化制御研究
骨髄線維症、間質性肺炎、強皮症、肺高血圧症など炎症と線維化の制御は重要なテーマです。これら代表的な線維化疾患におけるメカニズムは十分には明らかにされていません。これまでとは異なった炎症のメカニズムが線維化との関連が強いと考えています。線維芽細胞と免疫細胞のクロストークや間葉系細胞との関係について明らかにしていきたいと思っています。
これまでの研究
臨床研究
臨床研究をアカデミアとして重視しています。多施設共同研究や厚生労働省の研究班では3つの研究班(血管炎、関節リウマチ、IgG4関連疾患)に所属しガイドライン作成や血管炎症候群における疫学研究・治療研究・関節リウマチの生物製剤治療における予後因子やリスク因子など我が国のエビデンス作りに携わっています。現在も医師主導型臨床研究19件が進行中です。独自の臨床研究ではMTX治療が関節リウマチにリンパ腫を発症させるリスク因子となる事を亀田助教が証明しました。
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開発治験
医師主導型臨床試験や企業治験が多く関節リウマチのみならず強皮症、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、血管炎症候群、筋炎など広範囲の新規治療開発治験を受託しています。
これからの研究
臨床研究の推進はA-MEDの重要なミッションの一つとなっています。研究機関要件として重要であり、また基礎研究との連携において必須であり、臨床講座としては最大限のエフォートを課すべきだと考えています。また臨床研究は新内科専門医の資格要件にも盛り込まれています。臨床研究の法規制などで本学が臨床研究を行える施設選定に取り残されないよう全力で取り組んでいます。
難治性疾患の診断・治療バイオマーカーの探索
当講座に関わる難治性病態である関節リウマチの生物製剤の効果予測マーカーや肺高血圧症・間質性肺炎の新規活動性、治療マーカーをこれまでの血清サイトカイン・免疫担当細胞解析に加えてマイクロアレイやプロテオミクスなどの研究手法を用いて明らかにしたいと思っています。本研究はテーラーメイドを見据えた治療に寄与することを目標とします。そのためにバンキングシステムを構築し即座に新規研究に対応していきたいと思います。
間質性肺炎の新規治療の開発
間質性肺疾患は有効な治療法が全くありません。近年抗CD20抗体(リツキシマブ)が有効であるとの報告が認められます。当科では膠原病汎血球減少症に対する有効性を報告し新規治療として経験を積んでいます。基礎研究との橋渡しで新たな自己免疫性炎症制御の可能性とそのメカニズムを検討していきたいと思っています。
疫学研究・観察研究・多施設共同研究
本邦の臨床研究は基礎研究とは異なり沢山の課題があります。本邦の臨床研究の数、質ともに中国や韓国を含めた諸外国に大きく差をつけられています。香川県や中四国を中心とした疫学研究を含めた独自の医師主導型臨床研究や全国に展開される本邦のエビデンス作成を目的とする多施設共同研究への積極的な参画を行って行きたいと思います。そのためには他の大学や研究所を含め中核臨床研究施設への人的交流なども積極的に行っています。