血液内科 研究概要

研究概要

研究のための研究ではなく臨床に直結する研究を目指して、日々の臨床的疑問や日常診療の問題点を解決できるようなテーマでの研究を行っています。平成27年度からは門脇教授の着任に伴い新しい免疫療法の開発に着手していきます。臨床研究だけでなく基礎研究にも力を注いでいきたいと思っていますので、血液学に興味のある若い皆さんの来訪をお待ちしています。研究室での研究体制は整っており、研究に興味のある学生さん、研修医の先生を歓迎します。

基礎研究はこれまでの血液腫瘍の分子病態解明、抗がん剤薬物療法の作用機序解明、血液腫瘍に対する免疫療法の開発をより発展させていきます。臨床研究では、自施設での介入研究や観察研究の他に、日本成人白血病治療共同研究グループ(JALSG)、日本細胞移植研究会(JHCT)などの全国研究グループに参加し、適格症例があれば積極的に登録し、全国多施設研究に協力しています。研究の分野では、学内のみならず国内外の研究施設に積極的に留学し、その成果を学内にフィードバックすべく努力しています。

基礎研究

造血器腫瘍に対する新たな免疫療法の開発

がんに対する新たな治療法として、近年免疫療法が大きな脚光を浴びています。私たちは、免疫系の中心的な細胞である樹状細胞の研究に端を発して、造血器腫瘍に対する免疫療法の開発を進めてきました。今後はこれをさらに推し進めて、自然免疫と樹状細胞の活性化を軸とした新たな免疫療法を開発するとともに、共同研究を通してT細胞を用いた免疫療法の開発も進めていきます。

分子標的療法が免疫系に及ぼす影響

新たながん治療法である分子標的療法と免疫療法は、作用機序が異なりお互いにカバーし合うことから、両者の併用療法が魅力的ながん治療になっていきます。さらに、分子標的薬の中には免疫細胞の働きを強める薬剤があることから、分子標的療法と免疫療法が相加・相乗作用をもつことが期待できます。私たちは、造血器腫瘍に対する分子標的薬の免疫細胞への作用を解析することにより、新たながん薬物療法の開発に貢献していきます。

樹状細胞の機能解析

樹状細胞はT細胞に対する最も強力な抗原提示細胞であるとともに、環境によっては逆にT細胞の反応を抑えることから、免疫反応を正負両方向にコントロールする免疫系の中心的な細胞といえます。したがって、この細胞の機能を制御することは、さまざまな免疫関連疾患の新たな治療法の開発につながります。私たちは、長年培ったヒト樹状細胞の基礎研究と、臨床で出会う新たな現象を結びつけて、樹状細胞をがん・感染症・炎症性疾患などの広汎な病気の治療に応用するための基礎的検討を続けています。

担がん患者におけるNKT細胞の特徴に関する研究

がん患者ではNKT細胞をはじめとする自然免疫系細胞および獲得免疫系細胞の免疫機能低下がすでに存在することが知られています。NKT細胞は、体内の免疫系細胞の中でも自然免疫と獲得免疫を橋渡しする重要な役目を持った細胞です。がん患者でのNKT細胞の機能を解析し、障害されたNKT細胞の機能を回復することでがん治療に活用できないかについて研究しています。

感染症に対するγδT細胞療法の開発

γδT細胞は体内の自然免疫系細胞の中でも系統発生学的には最も古くから存在し、哺乳類にとってはより原始的な細胞集団とされています。私たちはがん患者をはじめとする免疫抑制状態において易感染性から生じる日和見感染に対してγδT細胞を利用した感染症治療の開発を考えています。

造血幹細胞移植後ウイルス感染症の発症リスクと早期治療に関する研究

造血幹細胞移植後に発生する様々なウイルス感染症に関して、ウイルスモニタリングを用いたリスク要因の同定と早期発見および、治療耐性化のメカニズムの解明を研究しています。

マルトフィリア感染症の保菌と感染の関連性に関する研究

Stenotrophomonas maltophilia (マルトフィリア)は血液がん化学療法において緑膿菌に次いで頻度の多い致死的感染症のひとつです。化学療法中のマルトフィリア感染症を発症した症例におけるマルトフィリア菌の分子微生物学的解析を行い、保菌と感染の関連性を解明しようとしています。

造血幹細胞移植後の孤立性髄外再発の病態解明と治療に関する研究

造血幹細胞移植後の再発形式として最も深刻な孤立性髄外再発(extramedullary relapse; EMR)において、自己リンパ球が回復して免疫反応を引き起こすことを私たちは証明しました。現在、同じ髄外再発であっても様々な形式で起こるEMR症例を蓄積し、キメリズムなど分子細胞生物学的、分子遺伝学的な特徴の解析を行っています。

B細胞性リンパ腫に合併するT細胞性リンパ腫の病理学的および細胞分子学的解析

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、などの成熟B細胞性腫瘍において、治療経過でT細胞性リンパ腫を合併することが知られていますが、その発症病態はまだ未解明のままです。私たちの臨床症例で得られた少数例のT細胞性リンパ腫合併B細胞性リンパ腫において、T細胞レセプター再構成などをはじめとした分子免疫学的解析を行っています。

血管内リンパ腫の細胞生物学的特徴の解析

血管内リンパ腫は成熟B細胞性腫瘍の中でも独立した疾患群として分類されていますが、血管内リンパ腫様増殖そのものは様々なリンパ腫において病理学的に観察される進展形式のひとつと考えられます。そこで様々なサブタイプのリンパ腫における血管内リンパ腫増殖について病理学的検討を行っています。

多発性骨髄腫におけるカルモジュリン拮抗剤の効果

カルモジュリン拮抗剤は多くのがん細胞でアポトーシスを誘導することが知られています。多発性骨髄腫に対するカルモジュリンの効果については未解明な点があり、骨髄腫の細胞株および動物モデルでの効果を確認しました。今後は作用機序の解明や臨床効果の確認を検討しています。

臨床研究

全国多施設研究
  • JALSG(Japan adult leukemia study group)治療プロトコール各種
    AML-209GSなど
  • JSCT-NHL10
    高リスクびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に対する治療早期のFDG-PETを用いた、リツキシマブ併用の大量化学療法+自家末梢血幹細胞移植、あるいは R-CHOP療法への層別化治療法の検討
  • JSCT-MM12
    未治療症候性多発性骨髄腫に対する新規薬剤を用いた寛解導入療法、自家末梢血幹細胞移植、地固め・維持療法の有効性と安全性を確認する第Ⅱ相臨床研究
  • JSCT Haplo14 RIC
    強度減弱前処置による移植後シクロホスファミドを用いた血縁者間HLA半合致移植の安全性と有効性の検討
  • JSCT Haplo14 MAC
    骨髄破壊的前処置による移植後シクロホスファミドを用いた血縁者間HLA半合致移植の安全性と有効性の検討
  • TKI治療経過中に染色体異常を来した慢性骨髄性白血病に関する全国調査
  • Stop nilotinib trial (NILSt trial)
    イマチニブまたはニロチニブ治療により分子遺伝学的完全寛解(Complete Molecular Response; CMR)に到達している慢性期慢性骨髄性白血病患者を対象としたニロチニブ投与中止後の安全性と有効性を検討する多施設共同第Ⅱ相臨床試験
  • Switch to nilotinib trial (NILSw trial)
    イマチニブ治療により分子遺伝学的大寛解(Major Molecular Response; MMR)に到達している慢性期慢性骨髄性白血病患者を対象としたニロチニブの安全性と有効性を検討する多施設共同第Ⅱ相臨床試験
  • Stop dasatinib study (STDAST)
    チロシンキナーゼ阻害薬治療により分子遺伝学的完全寛解(Complete Molecular Response; CMR)に到達している慢性期慢性骨髄性白血病患者を対象としたダサチニブ投与中止後の安全性と有効性を検討する臨床試験
  • 日本造血細胞移植学会に関連した各種調査研究
    本邦の同種造血幹細胞移植後長期生存成人患者におけるQuality of Lifeに関する調査研究
    同種造血幹細胞移植後の類洞閉塞症候群の発症割合、リスク因子ならびに治療法に関する研究
    同種造血細胞移植後HHV-6脳炎:発症頻度、危険因子及び予後に関する後方視的研究
自施設自主研究
  • 低用量ATGを用いた移植前処置の開発
  • 移植後TMAに対するFFP早期投与による予防効果
  • 香川県全域における急性骨髄性白血病患者の長期予後の解析
  • 香川県全域における慢性骨髄性白血病の予後予測に関する研究
  • 血液疾患における副腎皮質ステロイド投与がボリコナゾール血中濃度に与える影響
  • 造血幹細胞移植中のサルコペニアの危険因子解析
  • 造血幹細胞移植中の栄養療法の与える影響
  • 造血幹細胞移植前呼吸機能が肺感染症に与える影響に関する研究
  • 造血幹細胞移植中の口腔ケアによる感染症予防対策
  • 血液疾患に対する安全な中心静脈カテーテル留置手法の解析
  • 血液疾患治療中の中心静脈カテーテル留置とカテーテル関連血流感染の関係
  • 移植早期のタクロリムスによる腎機能障害の病態相移行に関する研究
  • 急性骨髄性白血病におけるD-indexによる感染症発症予後予測