血液内科研修について
血液内科の診療は白血病・悪性リンパ腫などの造血器腫瘍に対するがん薬物療法が中心になります。当院は四国で最も早く骨髄移植に着手した病院であり症例も豊富です。また血液内科では、血液疾患の幅広い診療にとどまらず、それに関連するいくつかの分野の専門的知識を習得することができます。
がん薬物療法
臨床腫瘍学の領域では、様々な悪性腫瘍疾患の中でも最も治療強度が強く、集中した全身管理を必要とする抗がん化学療法を学ぶことが可能です。各種の副作用を事前に予防し、また重症化を防ぐために、様々な支持療法を実践することで抗がん剤治療のエキスパートになることができます。その結果、臨床腫瘍学的に緊急の病態「オンコロジー・エマージェンシー」を鑑別しひとりで対応できるようになります。
感染症治療
血液診療を通して、関連した各種の感染症、特に免疫抑制状態にある患者(immunocompromised)における感染症対策に精通できます。血液腫瘍患者はその治療中にありとあらゆる感染症を合併する可能性があることから、感染症の鑑別およびその治療を学ぶことができます。抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤など抗微生物薬には一通り慣れ親しむことになり、適切な抗微生物薬を適切に使うことができるようになります。
緩和医療
支持療法の中には緩和医療も含まれています。一時的にオピオイドなどを使った疼痛コントロールを必要としても、決して終末期ではない回復可能な多くの血液腫瘍症例に接することで、患者さんの回復力を実感することができるでしょう。
輸血療法
血液内科は輸血を実施する頻度が最も多い診療科です。他科診療では経験しない輸血療法についても物怖じすることなく対応できるようになります。
チーム医療
栄養療法、理学療法、口腔ケアなどの診療チームと強調して患者のQOLを損なわないように診療する手段を学ぶことができます。
造血幹細胞移植
造血器腫瘍に特有の集学的治療である造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)は血液診療の花形といえ、上記すべての事項が関わります。また、同種造血幹細胞移植ではGVHD(移植片対宿主病)が不可避かつときに致命的であるため、その予防や治療に細心の注意を払います。この造血幹細胞移植を経験すれば、全身に起こる諸問題に並行して対処しつつ救命する、究極の腫瘍内科診療を体験できるでしょう。
このような血液疾患診療は全身管理に必要な幅広い知識を必要とし、血液学以外の領域での専門医取得も可能です。具体的には、臨床腫瘍学、臨床感染症学、緩和医療学、臨床心理学、輸血学、臨床微生物学、臨床栄養学、臨床薬理学などです(下記)。
初期研修医のための血液内科研修プログラム
内科研修実施中に最短1.5か月から、内科専門分野から「血液内科」だけを選択することができます。香川大学医学部附属病院以外にも、県内の血液内科常勤医の勤務する基幹病院で、大学病院外の血液内科研修を受けることも可能です。
当科で初期研修することによって、感染管理、輸血療法、疼痛緩和、症状緩和などの多彩で柔軟な支持療法を武器に、臨機応変に行うがん薬物療法を経験することができます。クリーンルームでの清潔管理や、感染対策などを身をもって体得し、どういった要因が感染リスクになるのかを直に感じることができます。通り一辺倒の感染症対策を勉強するのではなく、環境や人を介した感染症の違い、食事や生活習慣からの感染症リスクを学び、その知識を背景に、根拠をもった感染管理および感染対策ができるようになります。その結果、感染対策のための患者指導にも十分な理解を得るような説明ができるようになります。
また常に基礎研究との垣根が低い血液内科領域では、患者を診ながらその場で血液疾患の病態を理解できるようになります。たとえば、分子標的治療薬の治療効果を日々のデータで観察したり、化学療法後の腫瘍のふるまいを日々の血液検査から直接確認したりすることができます。特に白血病の治療では、血液中に流れる、あるいは骨髄中に存在する腫瘍細胞を直接顕微鏡下で観察し、そのふるまいを丹念に見ながら日々の治療効果を実感することができます。
診療活動とその特徴
当血液内科で定期的に行われている全体の診療活動とその特徴を以下に列記します。
多職種医療チームカンファレンス(毎週火曜日)
看護師・歯科口腔外科医・薬剤師・栄養士・理学療法士などの多職種を交えた造血幹細胞移植症例カンファレンスを毎週開催しています。医師だけの視点でなく、多くの診療支援職種の考え方や価値観に触れることができる絶好の機会です。我々は病棟でこれらの他職種エキスパートと日常的に意志疎通し、診療の質の向上に努力しています。
血液グループ症例カンファレンス(毎週水曜日)
入院患者の症例検討会を毎週開催しています。特にその週の新規入院患者を対象に、詳細な経過報告と治療方針の検討を行い、グループでのコンセンサスを得た上での診療を基本にしています。病棟患者だけでなく、外来患者の診療の相談事などもこのカンファレンスで相談されます。
血液グループ回診(毎週火曜日)
入院患者の全体回診を診療科長である教授とともに、師長および学生も交えて毎週実施しています。従来の大学型の回診ではなく、各症例の治療方針をその場で再確認検討しながら行う患者本位の回診であることを忘れないようにしています。我々の病棟での全体回診の目的は研修医および医学生の教育が基本であることから、研修医や学生にも問題点が分かるように解説しながら回診しています。また、看護師長とともに回診することで医療スタッフ間での診療の一体化を理念としています。
血液グループ症例ミーティング(毎日)
入院患者の症例検討会を毎日開催しています。朝は8:30始業とともに病棟に集まり、その日の治療方針および処置、その日の入退院の確認を行います。グループ全体の行事やイベントがある場合にはその場で確認します。さらにグループ全体に通知すべき連絡事項も、遅滞なくその場で共有します。たとえば病棟での問題イベントなども即座に報告し合い、リスクマネージメントの強化にも役立っています。夕方は16:30の終業前に再度病棟に集まり、その日の結果報告や夜間当直への申し送り事項などの確認を行います。我々の診療に参加される機会があれば、連絡を密にし、お互いに情報を共有することが、診療の質を向上させるための最大の戦略であることにお気づきになるでしょう。
血液骨髄検鏡会(毎週金曜日)
その週に骨髄検査を実施した院内の全症例について、毎週顕鏡会を開催しています。血液検査室で長年骨髄像を判断しているベテランの検査技師とともに、形態や病態について議論し合いながら、血液内科医の伝統的な基本的技量である血液骨髄細胞の観察にいそしんでいます。病理組織の診断にも相通じる血液骨髄細胞の観察は尽きることなく毎回時間をかけて行っております。
研修医講義(毎週木曜日、講義指導医により変更あり)
研修医がローテーションする期間中は、週に1度のペースで血液診療に関連した最新の知識を講義する機会を設けています。毎年のどの研修医にも分け隔てなく一定の知識を伝えるようにしていますが、希望の内容があればそれに応えることもできます。
リサーチカンファレンス
指導医と密に相談しながら、学会報告や論文執筆の指導を受けることができます。毎週のグループカンファレンスの機会を使って、発表前の予演および発表内容のブラッシュアップをグループ全員で支援します。
初期研修として血液内科にローテンションされた場合に習得できる技術および技能
初期研修として血液内科にローテンションされた場合に習得できる技術および技能は以下の通りです。
中心静脈カテーテル処置は麻酔科と同様に多くの処置の機会を得ることができます。血液内科では、内科の中でも最も中心静脈カテーテル処置に精通するようになるものと自負しています。特には血球も血小板も低い状態のリスクの高い患者が多いことから、インシデントの頻度も高い可能性がありますが、逆境こそ最大の好機でもあります。中心静脈カテーテル留置をはじめとする処置における出血リスクを見込んだ上での安全な処置の実行が行えるようになり、どういった血液の状況でも対応できるようになります。また低侵襲のある各種の検査(消化管内視鏡など)や処置(抜歯やリンパ節生検など)などにおける出血傾向のリスク評価とリスク回避のための技術を学ぶことが可能です。
- 静脈血採血、動脈血採血
- 骨髄穿刺、骨髄生検
- 腰椎穿刺、髄腔内注射
- 末梢ルート確保、中心静脈カテーテル留置、透析用ブラッドアクセス留置
血液内科独自の研修目標
我々血液内科独自の研修目標について列記しました。
- 1.患者さんについて学ぶ
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- 疾患について学ぶ
- 血液検査
- 骨髄検査
- 病理
- 治療について学ぶ
- 抗癌剤、化学療法
- 抗菌薬、感染症治療
- 輸血療法
- 病歴要約を作成
- 疾患について学ぶ
- 2.手技を見学する
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- 骨髄穿刺
- 中心静脈カテーテル留置
- 髄腔内抗癌剤注射
- 3.外来を見学する
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- 大学
- 外勤先
- 4.カンファレンスに出席する
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- 移植カンファレンス
- 症例カンファレンス
血液学に関する習得項目
前期後期研修期間に渡って、日本血液学会が設定した以下の血液学に関する研修カリキュラムに沿って、各種の項目を、知識、診察、検査、治療症例経験のカテゴリー別に適宜研修していきます。
日本血液学会 血液専門医研修カリキュラム
知識
- 血液および造血臓器の形態、機能、病態生理について
- 主要症候
貧血、多血、発熱、出血傾向、血栓傾向、脾腫、扁桃腫大、肝腫大、リンパ節腫大、黄疸、免疫不全、過粘度症候群、ヘモグロビン尿
診察
- リンパ節触診
- 出血傾向視診
- 肝脾触診
検査
- 血球算定およびヘモグロビン定量(*データを解釈できる)
- 赤血球恒数(MCV,MCH,MCHC,RDW)(*前3 項目は算出できる)
- 塗抹標本の作製と鏡検
- 白血球百分率(*異常細胞、芽球の同定を含め自分一人で出来る)
- 網赤血球数
- 骨髄検査
- 血球の形態学的検査
- 造血必須物質測定
- 溶血に関する検査
- 血液学における放射線学的診断
- 表面形質検査
- 免疫血液学的検査
- 血漿蛋白検査
- 体腔液の検査と鏡検
- リンパ節の検査
- 血小板,凝固・線溶検査
- 血液型と輸血関連検査
- 染色体検査
- 分子生物学的検査
- 造血幹細胞検査(コロニー形成能,CD34 陽性細胞)
治療
- 食事指導(血液疾患に関する食事療法,特に鉄欠乏性貧血に対する予防と治療)
- 血液疾患の薬物療法(抗腫瘍薬を含む)
- 輸血療法
- 瀉血療法
- 特殊療法として摘脾、造血幹細胞移植、血漿交換、放射線治療、髄注
- 無菌管理
- 予後因子
- 治療効果の判定
- 感染症の管理・治療
症例経験
- 赤血球系疾患
出血性貧血、鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血、特発性門脈圧亢進症、全身性疾患に併発する貧血 - 白血球系疾患
- 非腫瘍性疾患
好中球機能異常症、無顆粒球症、全身性キャッスルマン病、血球貪食症候群、(組織球性)壊死性リンパ節炎、伝染性単核(球)症 - 造血器腫瘍
慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症、本態性血小板血症、慢性骨髄単球性白血病、若年型骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、治療関連急性骨髄性白血病/骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病、細胞性慢性リンパ性白血病および関連疾患(有毛細胞白血病を含む)、B 細胞リンパ腫、蛋白異常症、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症,アミロイドーシス、TおよびNK細胞腫瘍(成人T細胞白血病/リンパ腫、皮膚T 細胞リンパ腫を含む)、ホジキンリンパ腫、組織球ならびに樹状細胞腫瘍、肥満細胞症
- 非腫瘍性疾患
- 免疫不全症
先天性免疫不全症、続発性免疫不全症、HIV 感染症(AIDS) - 血栓止血疾患
血管障害に基づく出血性疾患(Osler-Weber-Rendu 病、Ehlers-Danlos 症候群、Henoch-Schönlein 紫斑病など)、先天性血小板減少症、偽性血小板減少症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血小板機能異常症(血小板無力症,Bernard-Soulier 症候群など)、血友病、von Willebrand 病、先天性凝固因子異常症、後天性血友病、抗第Ⅷ因子インヒビター以外の抗凝固因子インヒビター、ビタミンK欠乏症、α2 プラスミンインヒビター欠乏症、アンチトロンビン欠乏症、プロテインC 欠乏症、プロテインS 欠乏症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血栓性微小血管障害症(TMA)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELP 症候群、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT) - 薬剤による造血障害
がん診療の専門医のための項目
- 臨床腫瘍学の基礎
- がんの診断の基本原則
- がん患者の管理,治療の基本原則
手術、放射線治療、薬物療法、生物学的治療法、集学的治療、標準治療、支持療法(特にオンコロジー・エマージェンシー、栄養管理、腫瘍随伴症候群、院内感染症) - 心理的,社会的,経済的側面
特にサイコオンコロジーといわれる患者の心理学的サポートについて - 患者教育
- 医師主導治験
- 疾患登録
※日本血液学会のホームページも参照下さい。
香川大学医学部附属病院卒後臨床研修センターの規定する到達目標
以下は香川大学医学部附属病院卒後臨床研修センターの規定する到達目標です。
- 末梢血及び骨髄検査のデータを理解し,鑑別診断ができる。
- 貧血,汎血球減少症を呈する症例の鑑別診断,検査方針と治療を行うことができる。
- リンパ節腫脹や脾腫を呈する症例に対してその鑑別診断・検査方法が立てられる。
- 不明熱を呈する症例に対して,その鑑別診断・検査方法が立てられる。
- 出血傾向の鑑別診断を行い,その治療方針を立てることができる。
- 造血器悪性腫瘍の分類,診断を適切に行い,これらに対する抗腫瘍剤の適応,投与方法,副作用を熟知するとともに,実際の治療にあたって適確な支持療法を行うことができる。
- 成分輸血の種類と適応を充分に理解し、症例に応じ適切な成分血液製剤を投与することができる。また,その副作用に対処することができる。
- 顆粒球減少などのcompromised hostに対する感染予防法・感染時の治療法について熟知する。
- 自家,同種骨髄移植の適応を適切に判断し,骨髄移植の実際的手技を充分に理解できる。
- 担癌宿主及びその家族に対して,コメデイカルと協調して医学的・社会的・心理的ケアが十分できる。
当大学卒後臨床研修センターの研修プログラム※に準拠した内容になっています。
※香川大学医学部附属病院卒後臨床研修センターのホームページも参照下さい。
後期研修医のための血液内科研修プログラム
血液内科以外に専攻可能な臨床分野としては、臨床腫瘍学、感染症学、輸血学、緩和医療学、静脈経腸栄養学、臨床微生物学、臨床免疫学、臨床薬理学など多彩です。症例報告サポート、生物統計学の講義、英語でのプレゼンテーション、基礎研究テーマの相談、基礎医学実習などの機会も設けます。
専門医育成プログラムを選択された場合には、当科に医員(もしくは助教)として所属し血液内科の診療をしながらいくつかの診療部門のローテーションを希望することも可能です。
※詳しくは香川大学医学部附属病院専門医育成プログラムのホームページも参照下さい。
大学院教育
希望があれば最短で卒後3年目から香川大学大学院に入学することができます。後期研修として、数年間大学附属病院で症例を経験した後、あるいは関連病院での血液専門診療をある程度体得した後、大学院に入学することも可能です。大学院生は4年間のうちに海外の主要医学雑誌に論文の掲載、および米国血液学会総会(ASH)などの国際学会での研究成果発表を目標としており、必ず達成できることをお約束します。
主要な研究テーマは、血液疾患における免疫学的研究、特に悪性腫瘍の免疫療法に関する研究です。また、血液細胞の悪性化に伴う遺伝子変異や細胞内シグナル伝達の変化についても研究しています。教授以下これらの分野に精通したスタッフが、基礎研究から臨床研究まで幅広く指導します。大学院期間中も、病棟カンファレンスや希望があれば週1回程度の外来診療などで、臨床的勘を鈍らせないようにすることも可能ですし、臨床から離れて完全に基礎研究だけに打ち込むこともできます。大学院生期間中の外勤についても可能な限り希望に沿います。また血液内科以外に、免疫学教室や病理学教室、分子微生物学教室などとの連携により、多分野の研究手法や考え方を学ぶことも可能です。
スタッフ教育
当グループのスタッフは優秀でありますが、お互いに知識を共有しあうという姿勢で臨床に取り組んでいます。医師経験年数の序列にとらわれずお互いに教え合うことを快しとし、日々のカンファレンスで切磋琢磨しています。学会や研究会への積極的な参加を推奨しています。学会参加中の診療代行についてはグループ全体でサポートしますので、病棟や外来の診療に後ろ髪引かれることなくしっかりと学習できるようにしています。
ライフワークバランスについても、十二分に配慮されている実績があります。